Biz Law Hack - 別館

半匿名ブログで過去に書いた法律記事をこちらに写しました。
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2010年05月

4.内国歳入法のSection 1260

パススルー・エンティティ(ヘッジファンドなど)に対するエクイティ持分について、デリバティブを使って通常所得(ordinary income)や短期譲渡所得を長期譲渡所得に変換した場合、その変換された部分の長期譲渡所得は、Section 1260により通常所得として取り扱われます。

しかも、ただ変換するだけではなく、通常所得とされたものについては利子分の税が追加的に課されます。

そのメカニズムは以下の通りです。
  • 一定のレート(applicable federal rate)で各年に割り付けられる。
  • その割り付けられた額について適用税率をかけ、支払うべきはずだった税金の額を計算する。
  • その支払うべきはずだった税金の額に、一定のレート(Section 6601のレート)をかける。
  • これによって導かれた金額が、デリバティブ取引によって利益を実現した年の税金に含められる。
具体的な数字をもとにした例は、以下のようになります。

(前提)
  • Aがあるヘッジファンドについて金融機関と契約期間2年間のデリバティブ取引を行った。
  • ヘッジファンドに長期譲渡所得400、短期譲渡所得1800、通常所得300が発生し、デリバティブ取引の結果としてAは2500の長期譲渡所得を得た(手数料などは無視。)。
  • applicable federal rateが10%。
  • Aの適用税率は20%
  • Section 6601の税率は5%

続きます。
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2.ヘッジファンド持分に連動するデリバティブ

ヘッジファンドに直接投資する代わりに、ヘッジファンド持分に連動するデリバティブに投資した場合、短期譲渡所得を長期譲渡所得に変換することができま す。

例えば、ヘッジファンド持分についてのフォワード(相対で行われる先物・先渡取引。差金決済のものを含む。)の場合、投資家は将来の一定の日においてヘッ ジファンド持分を譲渡するという約束をし、当該日に実際に譲渡をすることになります。この際、投資家は1年以上保有したヘッジファンド持分を譲渡すること になりますので、そこでの利益は長期譲渡所得を構成することになります。

したがって、投資家としては短期譲渡所得を長期譲渡所得に変換することができそうです。

しかも、このような取引をすると、利益の認識が将来の一定の日まで繰り延べられるばかりか、ヘッジファンドにおいて発生した各所損益も通算できてしまうと いうメリットも有ります。

3.相手方の問題

投資家がこのようなデリバティブ取引を行うためには、相手方が必要です。相手方が当該ヘッジファンド持分の価格が下落すると信じているような場合には契約 が成立しますが、そのような相手方を見つけるのは困難です。

そこで、金融機関が相手方候補として上がってきます。金融機関であれば多数の投資家を相手方としつつそのリスクをヘッジして、手数料収入を得るというビジ ネスができそうです。

金融機関は、ヘッジファンド持分を購入することによりこの取引のリスクをヘッジすることができます(理論的にはヘッジファンドの行う投資と同じ投資を行え ばヘッジ可能ですが、現実的に不可能です。)。

そして、金融機関がヘッジを行う際に投資家がヘッジファンドに直接投資するのと同じ課税を受けるのであれば、金融機関はそれを投資家に転嫁するだけでので金融機関を相手方とする意味はありません。

しかし、金融資産の時価評価(IRC Section 475)が求められている金融機関であればその心配はありません。

すなわち、ヘッジファンド持分を時価評価する一方で、投資家を相手方とするデリバティブも時価評価することになりますので、差し引きゼロで課税なしとなります。


続きます。


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ヘッジファンド持分に関する課税について内国歳入法Section 1260というのがあります。これは、ヘッジファンド持分に関して行われたタックス・プランニングに対応しようとするものなのですが、その内容が興味深いので紹介したいと思います。

1.前提事実 - ヘッジファンド持分に関する課税

投資ファンドは基本的に組合(Limited Liability Partnership)として組成されますが、これは税務上パス・スルー・エンティティであり、ファンドの投資損益は直接投資家に帰属します。

すなわち、ファンドが資産を処分して利益を得た場合、その譲渡益についてファンドの段階での課税は生じず、投資家に対して直接、割合的に帰属することとなります。例えば、ファンドが株式の譲渡により100の投資収益を上げた場合、ファンドの持分を10%保有する投資家は、10の譲渡所得を認識することとなります。ファンドが50利子を受け取った場合、当該投資家は5の利子所得を認識することになります。

アメリカでは(日本でもそうですが)、長期譲渡所得と短期譲渡所得では課税上の取り扱いが異なり、長期譲渡所得の方が圧倒的に有利な取り扱いを受けます。

プライベート・エクイティ・ファンドの場合、その投資は基本的に長期ですので、投資家の所得は長期譲渡所得が主となりますが、ヘッジファンドの場合、その投資は短期である場合が多く、投資家の所得は主として短期譲渡所得となってしまいます。

そこで、この短期譲渡所得を、デリバティブを使って長期譲渡所得に変える商品というのが考え出されました。


続きます。


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その後、この実務は発展します。オーダー・フローへの支払いは、小口の注文に対する支払いが中心となっていきました。

さて、ここで問題です。大口の注文に対して支払いをすれば、効率良く注文を集めることができ固定費や在庫コストは簡単に希釈化できるにもかかわらず、オー ダー・フローへの支払いは、なぜ小口の注文を中心にしていったのでしょうか。

この理由は、ビッド・アスク・スプレッドの最後の要素である逆選択(adverse selection)にあります。

大口の注文をする投資家に比べ、小口の注文をする投資家は情報を持っている可能性が類型的に少ないと考えられます。そのため、ディーラーは自分に損をさせ ない投資家のみを集め、逆選択の要素を極力減らそうとしたのです。

このオーダーフローへの支払いは、一種のリベートのようなものだとして問題視されましたが、今では許容されています。ブローカー間で競争が十分な場合、ブ ローカーが投資家に対して課す取引手数料が安くなり、その結果、投資家が利益を得ると考えられます。

ただし、ブローカーは、レギュレーションNMSのRule 607及びExchange ActのRule 10b-10で投資家への報告が求められます。また、最良執行義務は当然のことながら課されてされています。

日本で同じことを他国に先駆けて思いついた人がいた場合、リベートはけしからん、ということで終了な気がします(自粛するか所轄官庁がダメと言うかは別として。)。その点、アメリカではNASD(今はFINRA)がいろいろと検討して、結局のところは投資家に利益があるという結論を出したのは、なかなかすごいことではないかと思います。


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偉そうなタイトルをつけてしまいましたが、アメリカ証券ディーラーの実務の一つである、オーダー・フローへの支払い(Payment for Order Flow)について自分のノートがわりにまとめてみます。なお、ここでいうディーラーは、買値(Bid)と売値(Ask)を提示するディーラー(マーケットメイカーのイメージ)を意味します。

ビッド・アスク・スプレッドの構成要素については、以前まとめましたが(その1、その2)、これがオーダー・フローへの支払いの理由につながっていきます。

ビッド・アスク・スプレッドの構成要素のうち、固定費や在庫コストについては、ディーラーとしての取引量を増やせば増やすほど希釈化されていきます。したがって、ブローカーから出される注文を自己に集中させればさせるほど高い利益をあげることができます。

このことに着目し(考え出した人に聞いていないのでたぶん。)、オーダー・フローへの支払いという実務が発生しました。すなわち、ディーラーは自らに注文を出してくれるブローカーに対していくらかの金銭を支払い、注文が自己に集中させようとしました。


続きます。

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