Biz Law Hack - 別館

半匿名ブログで過去に書いた法律記事をこちらに写しました。
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2012年03月

タイムリーすぎるタイトルですが、報道になっている件ではなく、前回に引き続きアメリカの話です。

情報提供者をTipper、情報受領者をTippeeと言います。

情報受領者が受領した情報に基づいて取引した場合には、インサイダー取引違反とする必要があります。ですが、何でもかんでも捕捉するのでは広すぎるので、判例法上、「個人的な利益(personal benefit)」が要件とされています。

したがって、情報提供者において、情報開示の見返りとして個人的な利益を得るつもりがなければ、インサイダー取引の責任は問われません。そして、情報提供者が問題なしなら、受領者も責任を問われることはありません。

例えば、会社の役員が非公開情報を一部投資家に提供したとしても、それだけでは発行者株主に対する「裏切り」はありません。なので、受領者のほうで非公開情報を使って取引を違法なインサイダー取引とはされません。

日本のルールに慣れていると、直感的には捉えにくいかもしれませんが、アメリカでは「裏切り」があったかどうかを中心に据えているというのを忘れなければ、わかりやすいかもしれません。

日本の場合、周知する方法として「公表」の意義が具体的に定められており、これによって非公開情報を公にしていくのですが、アメリカではインサイダー取引との関係では「公表」でインサイダー情報性を解消するということにはなっていません。

「裏切り」がなければ一部の人にだけ情報を提供してもいいんじゃないの?というのがアメリカのインサイダー規制です。

でもそれでは情報の非対称性を生み、情報をもっている一部の人が他の人を食い物にしてしまいます。そこで、Regulation FDというのがあり、公表するときはちゃんと周知することが求められています。

日本とはかなり構造が違いますね。 Regulation FDは、インサイダー取引とは関係していますが、 日本とは異なりインサイダー規制に組み込まれているわけではありません。

主な参考判例
前回:O'hagan
今回:Dirks
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アメリカのインサイダー取引に関するルールは判例に基づくものです。日本の場合、金商法に詳細な規定がありますが、アメリカでは判例法が規律しています。

米国ロースクールではいろいろな判例法を読まされ、歴史を踏まえつつ勉強させられるのですが、ソクラテス・メソッドと相まってよくわからないまま終了ということになりがちなのではないかと思います。

というわけで、米国インサイダー取引ルールを、極めてざっくりと、わかりやすい形でまとめてみます。

1.2つのアプローチ

インサイダー取引は何が悪いかという観点から、判例法上以下の2つのアプローチが取られています。
  • Classical Theory
  • Misappropriation Theory
歴史的には、Classical Theoryがあり、その後Misappropriation Theoryが採用されたという経緯がありますが、これら2つは、相反するものではなく、どちらも判例法有効なルールと理解されています。

2.Classical Theory

これは、 インサイダー取引は、発行者の株主に対する裏切り行為だということに着目している理論です。

例えば、ある会社が画期的な合併を行うことを決定し、その事実が非公表にもかかわらず、取締役が株を買ってしまった場合、この理論が当てはまります。

取締役は、株価が上昇するような情報を持ったまま、既存株主から安値(=ポジティブな情報が反映されない価格)で株を購入したことになります。これは、既存株主に対する裏切りにほかならないので、インサイダー取引に該当します。

このClassical Theoryは、基本的に会社内部者の取引が問題となりますが、判例によって情報受領者(tippee)も補足されるとしています。

金商法166条の内部者取引規制と似たような構造ですね。

3.Misappropriate Theory

Classical Theoryでは、発行者の内部情報と関係ない重要情報について補足することができません。

たとえば、非公表の公開買付情報を知って取引しても、発行者の株主に対する裏切りにはなりません。

そこで導入されたのがMisappropriate Theoryです。情報のソースに対する裏切り行為であるということに着目する理論です。

例えば、ある者から「秘密だよ」と言って近い将来の公開買付情報を教えてもらった者が、その情報を利用して取引をして儲けたら、当該情報提供者に対する裏切りとなります。

これは金商法167条と似たような構造ですが、「情報提供者に対する裏切り」がなければOKという議論が可能なので、範囲には有意的な違いがあると思います。

 4.日米の違い

日本では、制定法に該当するかどうかだけ重要で、なぜインサイダー取引違反が悪いのかについては明確にされていません。議論はいろいろあります。

個人的な感覚でいうと、日本の規制又はその執行は「重要情報を隠して行う取引は市場(というか相手方)に対する裏切りである」という思いがありそうに感じますが、アメリカの場合は上記のような理論なので、日本とは異なります。

アメリカでは、「市場(というか相手方)に対する裏切り」というのは、詐欺(Fraud)の問題として捉えられるのだと思います。

というわけで、発想も、実際に規制される範囲も、だいぶ違います。他の部分ではアメリカの証券法・取引所法と日本の金商法はかなりの部分で似ていますが、この違いは別世界といってもいいほど大きいのではないかと思います。

アメリカの人と話をする際には、同じことを話しているつもりで、全然噛み合っていないという事態が発生する可能性があるので、注意しましょう。



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2005年にアメリカの証券法は、有価証券の発行について、発行者・引受人等の投資家に対するコミュニケーションについてかなり規制緩和を行いました。

そのひとつの目玉がFree Writing Prospectusです。

Prospectusは日本語だと目論見書ですが、何を書いても良いProspectusというのは、当時のアメリカではかなりのインパクトがある改正だったと思われます(ただし、実務でどれだけ広まったかは別)。

証券法のもとでは、目論見書は基本的に法定の要件を満たすものでなければなりません。法定の要件を満たさない書面を作成するためには、なんかしらの理由(SEC Ruleなど)が必要で、記載できる情報にもかなり制限がありました。

2005年には、他の規制緩和と共に、Free Writing Prospectusが認められ、何を書いても良いとProspectusというものが認められました。

これは、SECに提出しなければならないなど、そこそこ面倒な要件はあります。そのため、Rule 405の定義やRule 433や164の要件に該当するかを検討していく必要があります。

これ、現行の日本法がまずはじめに頭にあると、あまりぴんと来ません。日米の証券法は似ているはずなのに、なぜか金商法では面倒な要件の検討は必要とされていません。

これは、条文上の大きな違いによるものです。

金商法だと、目論見書以外の資料を交付することは禁止されていません。開示ガイドラインに多少のルールは書いてありますが、法令上の要件ではありません。

すなわち、アメリカ証券法だと、

  原則禁止→要件を満たしたら例外としてOK

なのですが、金商法だと

  基本OK

なのです。 

というわけで、あまりピンとこないのだろうと思います。
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金融商品取引業には、4類型があります。それは以下の4つです。
  1. 第一種金融商品取引業
  2. 第二種金融商品取引業
  3. 投資運用業
  4. 投資助言・代理業
1.は、株券など典型的な有価証券について、売買や媒介、取次ぎ、代理など典型的な証券業を行う類型です。
2.は、非典型的な有価証券について、自己募集や募集の取扱いなどを行う類型です。
3.は、投資信託の資産を運用したり、投資一任により顧客の資産を運用したりする類型です。
4.は、顧客に対して投資に関する助言(投資顧問)を行ったりする類型です。

最近話題のAIJ投資顧問は、上記4つのうちどの類型でしょうか。

正解は3の投資運用業です。投資一任により顧客の資産を運用する類型です。”投資顧問”という名称からすると、4.投資助言・代理業に該当するようにも思えますが、違います。

ではなぜ商号に”投資顧問”が含まれているのでしょうか。

これは、金商法が出来る前の法制度に理由があります。

投資顧問業法では、投資一任契約に基づく資産運用は、投資顧問業者(登録が必要)が認可を受けて行うこととされていました。 そのため、投資一任契約に基づく資産運用を行う業者は、投資顧問業者だったのです。

現在では、資産運用と投資助言は別の類型になってしまったので、元の法制に基づく商業だと少し紛らわしいですよね。

ちなみに、報道などでは、「投資顧問業者」がどうのこうのと書いてありますが、現行の法制からするとかなり紛らわしいのではないかと思います。

まぁ、 金商法の類型について頭に入っていないと 紛らわしいと思うこともないので、大した問題でもないかもしれませんが。

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グローバル・オファリングをやるとき、Rule 12g3-2(b)の要件を満たす必要があるという話があります。

これは米国法のカウンセルがカバーしてくれるので、きちんとしたことはよく分からずに案件が進んで行ったりしますが、以下概要をまとめてみようと思います。

まず、大原則から。

取引所に上場していると、取引所法に基づく登録が必要になります(Section 12(a))。これは、金商法24条1項1号で有価証券報告書の提出が必要になるのと同じですね。

上場していなくても、エクイティ証券について、保有者数が500名以上、資産(total assets)が100万ドル超であれば、取引所法に基づく登録が必要になります(Section 12(g))。これは、金商法24条1項4号で、1000名以上、資本金の額5億円以上であれば有価証券報告書の提出が必要になるのと同じです。

資産(total assets)の意義については、Rule 12g5-2に規定があります。

そして、Rule 12g3-2(b)。

Rule 12g3-2は、上記のSection 12(g)の例外を定めており、海外民間発行体(foreign private issuer)がこれを利用することができます。

Rule 12g3-2には(a)と(b)の例外が定められており、Rule 12g3-2(a)は、米国居住者の300未満の場合に使用可能です。

Rule 12g3-2(b)は、細かい要件が定められていますが、ざっくり言うと米国外の証券取引所がメインの取引所であれば使用可能です。ただし、英語による情報開示などの負担があります。

その他の例外。

この他、Rule 12g1も例外として存在します。海外民間発行体の場合、資産が1000万ドル以下で、自動で気配値が公表されるものでなければ(not quoted in an automated inter-dealer quotation system)この例外が使用可能です。


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