Biz Law Hack - 別館

半匿名ブログで過去に書いた法律記事をこちらに写しました。
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カテゴリ:アメリカ私募ファンド

ファンド契約書の課税額分配(Tax Distribution)についてです。

訳語について自信がなかったのでググって見ましたが、日本語でこれに関する説明は見当たりませんでした。もしかしたら本邦初かも??

組合は課税上パススルー・エンティティとして扱われますので、組合型のファンドでは、手元に現金が来ない段階で所得を認識すべき場合があります(関連する法人税基本通達はこちら。)

特に、キャリード・インタレストの支払いを留保される場合(キャリード・インタレストの支払い方については前にまとめました→)、ファンド運営者(GP)にとっては、この問題は切実だったりします。

この場合に対応するため、ファンド契約書に課税額分配(Tax Distribution)が定められる場合があります。

これは、ざっくりといえば、ファンドがファンドの構成員に対して納税すべき金額を分配するという規定です。

ファンド構成員すべてを対象とする場合もあれば、ファンド運営者(GP)のみを対象とする場合もあります。

これは、ファンドの建付けとして、所得認識とキャッシュ・フローの問題が誰に生じるかによって異なってきます。

この問題がファンド運営者のみに発生する場合にはファンド運営者のみを対象とし、ファンド構成員すべてに発生する場合はファンド構成員すべてを対象とします。

分配資金の出所ですが、キャリード・インタレストの支払いを留保していることが原因であれば、キャリード・インタレストの前払いという形になると思います。

ファンド構成員全般の問題である場合、キャピタル・コールで資金を得ることを認めるパターンのほか、手元資金の範囲でのみ分配可能とするパターン、借り入れを行うパターンなどがありえます。

課税額分配をどうやって支払うか、支払った後はどうやって処理するか、などいろいろ考慮すべき点がありますが、投資家の属性などによって具体的に処理を検討する必要があります。
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続きです。

(適用)
この事案の場合、短期譲渡所得と通常所得の合計2100が、Section 1260により長期譲渡所得として扱われることになります。

そ して、applicable federal rateが10%なので、
      x*1.1+x=2100
      x=1000
となり、1年目に1100、2年目に1000が割り付けられます。

1年目に1100を認識せず、支払うべき税金を支払わなかった(とみなさ れる)ので、その金額に利子が課されます。まず、適用税率が20%なので、
      1100*0.2=220
となり、220の税金を支払うべきだったということになります。

これにSection 6601のレートをかけると
     220*5%=11
なので、11が利子として税金に追加されます。

これは損益の発生した実際のタイミングは問いません。例えば、ヘッジファンドが1年目に 2500の損失をだし、2年目に5000の利益をあげたとしても、その事実は無視されます。この例では、現実には1年目には認識すべき利益は全くないにもかかわらず、追加の11は支払わなければなりません。

なお、Section 1260は、所得の性質を変換しようという納税者の努力を否定するものですが、このデリバティブ取引にはまだ大きなメリットがあります。

デリバティブ取引を使った場合、1年ごとに損益を認識せず、デリバティブ取引期間中の損益を相殺することができます。

ヘッジファンドが定期的に同額の利益を上げていれば具体的なメリットはありませんが、利益を出す年と損失を出す年がある場合には、損失の繰延べの限定による不利益を回避することができます。


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4.内国歳入法のSection 1260

パススルー・エンティティ(ヘッジファンドなど)に対するエクイティ持分について、デリバティブを使って通常所得(ordinary income)や短期譲渡所得を長期譲渡所得に変換した場合、その変換された部分の長期譲渡所得は、Section 1260により通常所得として取り扱われます。

しかも、ただ変換するだけではなく、通常所得とされたものについては利子分の税が追加的に課されます。

そのメカニズムは以下の通りです。
  • 一定のレート(applicable federal rate)で各年に割り付けられる。
  • その割り付けられた額について適用税率をかけ、支払うべきはずだった税金の額を計算する。
  • その支払うべきはずだった税金の額に、一定のレート(Section 6601のレート)をかける。
  • これによって導かれた金額が、デリバティブ取引によって利益を実現した年の税金に含められる。
具体的な数字をもとにした例は、以下のようになります。

(前提)
  • Aがあるヘッジファンドについて金融機関と契約期間2年間のデリバティブ取引を行った。
  • ヘッジファンドに長期譲渡所得400、短期譲渡所得1800、通常所得300が発生し、デリバティブ取引の結果としてAは2500の長期譲渡所得を得た(手数料などは無視。)。
  • applicable federal rateが10%。
  • Aの適用税率は20%
  • Section 6601の税率は5%

続きます。
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2.ヘッジファンド持分に連動するデリバティブ

ヘッジファンドに直接投資する代わりに、ヘッジファンド持分に連動するデリバティブに投資した場合、短期譲渡所得を長期譲渡所得に変換することができま す。

例えば、ヘッジファンド持分についてのフォワード(相対で行われる先物・先渡取引。差金決済のものを含む。)の場合、投資家は将来の一定の日においてヘッ ジファンド持分を譲渡するという約束をし、当該日に実際に譲渡をすることになります。この際、投資家は1年以上保有したヘッジファンド持分を譲渡すること になりますので、そこでの利益は長期譲渡所得を構成することになります。

したがって、投資家としては短期譲渡所得を長期譲渡所得に変換することができそうです。

しかも、このような取引をすると、利益の認識が将来の一定の日まで繰り延べられるばかりか、ヘッジファンドにおいて発生した各所損益も通算できてしまうと いうメリットも有ります。

3.相手方の問題

投資家がこのようなデリバティブ取引を行うためには、相手方が必要です。相手方が当該ヘッジファンド持分の価格が下落すると信じているような場合には契約 が成立しますが、そのような相手方を見つけるのは困難です。

そこで、金融機関が相手方候補として上がってきます。金融機関であれば多数の投資家を相手方としつつそのリスクをヘッジして、手数料収入を得るというビジ ネスができそうです。

金融機関は、ヘッジファンド持分を購入することによりこの取引のリスクをヘッジすることができます(理論的にはヘッジファンドの行う投資と同じ投資を行え ばヘッジ可能ですが、現実的に不可能です。)。

そして、金融機関がヘッジを行う際に投資家がヘッジファンドに直接投資するのと同じ課税を受けるのであれば、金融機関はそれを投資家に転嫁するだけでので金融機関を相手方とする意味はありません。

しかし、金融資産の時価評価(IRC Section 475)が求められている金融機関であればその心配はありません。

すなわち、ヘッジファンド持分を時価評価する一方で、投資家を相手方とするデリバティブも時価評価することになりますので、差し引きゼロで課税なしとなります。


続きます。


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ヘッジファンド持分に関する課税について内国歳入法Section 1260というのがあります。これは、ヘッジファンド持分に関して行われたタックス・プランニングに対応しようとするものなのですが、その内容が興味深いので紹介したいと思います。

1.前提事実 - ヘッジファンド持分に関する課税

投資ファンドは基本的に組合(Limited Liability Partnership)として組成されますが、これは税務上パス・スルー・エンティティであり、ファンドの投資損益は直接投資家に帰属します。

すなわち、ファンドが資産を処分して利益を得た場合、その譲渡益についてファンドの段階での課税は生じず、投資家に対して直接、割合的に帰属することとなります。例えば、ファンドが株式の譲渡により100の投資収益を上げた場合、ファンドの持分を10%保有する投資家は、10の譲渡所得を認識することとなります。ファンドが50利子を受け取った場合、当該投資家は5の利子所得を認識することになります。

アメリカでは(日本でもそうですが)、長期譲渡所得と短期譲渡所得では課税上の取り扱いが異なり、長期譲渡所得の方が圧倒的に有利な取り扱いを受けます。

プライベート・エクイティ・ファンドの場合、その投資は基本的に長期ですので、投資家の所得は長期譲渡所得が主となりますが、ヘッジファンドの場合、その投資は短期である場合が多く、投資家の所得は主として短期譲渡所得となってしまいます。

そこで、この短期譲渡所得を、デリバティブを使って長期譲渡所得に変える商品というのが考え出されました。


続きます。


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