Biz Law Hack - 別館

半匿名ブログで過去に書いた法律記事をこちらに写しました。
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カテゴリ:PEファンド運営者への支払い

キャリード・インタレストとは何かについて、まとめてみます。

ファンドの運用成績がプラスだった場合、そのプラス分について、ファンド運営者はその一部(20%が多い)を優先的に受領できます。これをキャリードイン タレストといいます。

1.成功報酬?

キャリード・インタレストは、ときどき、成功報酬だと説明されていたりします。
これは、一部正しいですが、法律的には正確とはいえません。

確かに、キャリード・インタレストは、ファンドの儲けに応じてファンド運営者に支払われるもので、ファンド運営者に対する金銭的なインセンティブという意味では、成功報酬的な側面があります。広義の成功報酬と言えるかもしれません。

しかし、法的には、サービスに対する報酬ではなく、ファンド運営者の保有するファンド持分に対して支払われるファンド収益の分配です。

この点について、もう少し掘り下げます。

2.労務出資?

ファンドの持分に基づく分配とは何か。

ファンド運営者による労務出資があると考えれば、ファンド運営者に対して出資割合以上の分配をすることにも違和感はありません。

しかし、労務出資とは構成されません。

労務出資として構成することも出来なくはないですが、分配時におけるファンド運営者と投資家との利害調整は、キャリード・インタレストの支払い方 その1以降で検討したとおり、分配額の割合だけの問題ではありません。

そのため、ファンドの持分の性格そのものが違うものして構成されていると理解すべきと考えられます。

また、投資事業有限責任組合の場合、そもそも労務出資は認められていないため、労務出資として構成することは法律上不可能です。

わかりやすく言うと、配当について優先権のある株式のファンド持分版というイメージです。ファンド運営者は収益の一部が優先的に分配される優先持分を有し、投資家は収益の残りについて均等に分配される普通持分を有するといえます。

3.経済的合理性はあるか?

どうしてキャリード・インタレストのようなアレンジがなされるか。
出資金額に応じた分配がなされないのは不合理でしょうか。

キャリード・インタレストは、前述のとおり、ファンド運営者に対してインセンティブを与えるものです。キャリード・インタレストがあることによって、ファンド運営者の得る利益が、ファンドの投資成績の向上と直結します。したがって、ファンド運営者は真剣に投資成績の向上を追求するようになります。

このため、投資家は、ファンド運営者が優先的に利益の一部を得ることを許容しています。

4.税務上の取り扱い

上記2.のとおり、キャリード・インタレストの支払いは、ファンドによる利益の分配としての性質を持ちます。ファンド(組合を想定。)は、パススルー・エンティティですので、ファンドに譲渡所得が発生したときは、その譲渡所得はファンド運営者及び投資家のレベルで認識されます。

したがって、キャリード・インタレストは譲渡所得として課税されます。

5.譲渡所得としての課税は不公平?

キャリード・インタレストが譲渡所得として課税されることについては、批判的な意見も見受けられます。アメリカでは、譲渡所得として取り扱うのはやめようという提案がなんどもされています。

確かに、成功報酬と経済的にはそれほどかわらないといえます。また、実質的には投資運用サービスの対価であると言えなくもありません。

でも、これまで見てきたとおり、キャリード・インタレストとして構成することも、あまり不合理ではなさそうです。

日本の税法では、私法上の法形式が尊重されます。とりうる二つ方法のうち一つを、税金が安いという理由で選んだとしても、私法上きちんとしていれば、その法形式が読み替えられることはありません(というのが判例、裁判例の流れ。)。

なので、キャリード・インタレストを解釈によって譲渡所得ではないとするのは、難しいように思われます。

アメリカの場合、経済的実質を重視するのですが、やはり譲渡所得として取り扱われています。いろいろとアナロジーを使って説得的に構成できそうですが、研究不足のため割愛します。




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続きです。

④ ファンド運用者の取り分をファンド資産として留保しておき、最後にまとめて払う


ファンド運用者の取り分をどのように計算するかについては、①~③で見たようなバリエーションがあります。
これらとの違いは、ファンド運用者に対する支払いをせずに、ファンド資産としてキープしておくという点にあります。
この方法をとれば、取り返すということは考えなくて済みます。

6.クローバック

①’、②’、③’では、ファンド運用者から一定のお金を返してもらうアレンジになっています。これをクローバックと言います。

投資家から返金してもらうクローバックもありますが、それはまた別の話です。

この返金を確実なものにするために、いろいろなアレンジがありえます。景気が下むいてきてからは、投資家の交渉力が上がってきているはずなので、様々なアレンジが出てきているのではないかと思います。

7.その他の問題点

キャピタル・コール方式を取る場合で全額のコールが未だされていない場合にどのようなアレンジをするか、組合費用や税金の取り扱いをどうするか、などについても考えなければいけません。
場合分けをしてもキリがないので捨象しましたが、実際に契約書をドラフトするときは、実際のプロセスを想定して具体的に検討することが必要になります。


※ 書きためて日々アップしていく予定でしたが、諸事情によりまとめてアップしました。

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続きです。

③ 投資家に対して出資額相当額+一定の利益を先に支払い、それが済んでか らファンド運営者にキャリード・インタレストを支払う。それでも払いすぎとなった場合は返還する。
③’ ③
にプラスして、担 保・保証、エスクローなどの返還を確実にする方法をとる。

投資家に対して出資額相当額+一定の利益を払い終えた後に、キャリー ド・インタレストをどのように支払っていくかについてはいろいろとバリエーションがありえますが、②と同様に、ファン ド運営者に対する支払いを優先するパターンで考えてみます。
「一定の利益」が10%の場合、③及び③’での分配は以下のとおりになります。

(投資案件1)
投資家に180億円分配

(投資案件2)
投資家に120億円分配したところで出資相当額300億円の支払いが完了。残り40億円。
次に、ファンド投資家に「一定の利益」分の30億円(300億円の10%)を支払う。残り10億円。
この時点での利益が140億円なので、ファンド運営者が得られるキャリード・インタレストは計算上28億円。ファンド運営者に残りの10億円を分配。

(投資案件3)
この時点での利益が100億円なので、ファンド運営者が得られるキャリード・インタレストは20億円。
すでに10億円は支払済みなので、10億円をキャリード・インタレストとしてファンド運営者に支払う。
残り50億円を投資家に分配。

(合計)
投資家に380億円分配、ファンド運営者に20億円分配


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続きです。

② 投資家に対して出資額相当額を先に支払い、それが済んでからファンド運営者にキャリード・インタレストを支払う。それでも払いすぎとなった場合 は返還する。
②’
②にプラスして、担保・保証、エスクローなどの返還を確実にする方法をとる。

投資家に対して出資額相当額を払い終えた後に、キャリード・インタレストをどのように支払っていくかについてはいろいろとバリエーションがありえますが、ファン ド運営者に対する支払いを優先するパターンの場合、②及び②’での分配は以下のとおりになります。

(投資案件1)
投資家に180億円分配。

(投資案件2)
投資家に120億円分配したところで出資相当額300億円の支払いが完了。残り40億円。
この時点での利益が140億円なので、ファンド運営者に28億円分配し、12億円を投資家に分配。

(投資案件3)
ファンド運営者から8億円返還、投資家に68億円分配

(合計)
投資家に380億円分配、ファンド運営者に20億円分配


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続きです。

5.いろいろなバリエーション

支払い方には、いろいろとバリエーションがありますが、だいたい以下のパターンとなります。

① 利益が出る都度、プロラタでキャリード・インタレストも支払うが、払いすぎとなった場合は返還する
①’ ①にプラスして、担保・保証、エスクローなどの返還を確実にする方法をとる。

その1で書いた例にすこし事実を足して整理してみます。

(前提事実)
・投資家は合計で300億円を出資
・ファンドがその期間を終えるまで3つの投資案件を実行
・投資案件1で80億円の利益(100億円の投資で180億円のリターン)
・投資案件2で60億円の利益(100億円の投資で160億円のリターン)
・投資案件3で40億円の損失(100億円の投資で60億円のリターン)
・簡略化のため、ファンド運営者の出資、管理報酬、組合費用などは無視。

①及び①’での分配は以下のとおりになります。

(投資案件1)
投資家に164億円分配、ファンド運営者に16億円分配

(投資案件2)
投資家に148億円分配、ファンド運営者に12億円分配

(投資案件3)
ファンド運営者から8億円返還、投資家に68億円分配

(合計)
投資家に380億円分配、ファンド運営者に20億円分配


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